小説家や脚本家、フリーライター等々…「物書き」と呼ばれる職種の方にはなぜかヘビースモーカーが多い。かく言う私も本業ではないにせよ物を書く仕事が常についてまわり、その際にはタバコは必須。

「物書きの仕事が無くならない以上、禁煙は仕事に支障をきたすので無理」…と思い、吸う本数を減らしつつも完全な禁煙には至らず。

創作活動にタバコは欠かせないアイテム、そう確信していたわけです。

しかし多くの医療関係者や禁煙成功者は「タバコがないと集中できない=思い込み」と言うではありませんか。

そんな決めつけは間違っている!…と思っていた喫煙者が、禁煙1ヶ月でコロリと寝返ったお話です。

物書きにタバコは必須

執筆のスタイルは人それぞれですが、私は普通にパソコンを使用。

以前はタバコをくわえながらバチバチとキーボードを叩いていたものの、それではデスク周りがとんでもなく汚れるため…タバコが吸いたくなったらベランダに行って休憩がてら一服する方式に。集合住宅ではないので隣家に迷惑をかけることはありません。

『書き始める』
 ↓
『行き詰まって手が止まる』
 ↓
『ベランダに行き、タバコを吸いながら頭を整頓』
 ↓
『すっきりリフレッシュ。仕事が捗る』

…といった事の繰り返しで文章を生み出していたわけです。これがまた実に良いリズムなわけで。

いったん席を離れ、外の空気とタバコの煙を吸いながら落ち着き、新たなアイデアを思いつく。そしてデスクに戻ってそれを活かす。

この手の職種の人間にとって、もはやタバコは必須

そう思っていたわけです。同様の主張をする著名な方も多くおられます。

もちろん医学的には『タバコで集中できるというのは間違い』という理屈であることも承知。

実際は『血中のニコチン濃度が低下する事で軽い離脱症状(禁断症状)が起き、集中力が低下。タバコを吸うことで一時的に症状が緩和し、集中できる(ような気になる)』ということ。

しかし『タバコがないと仕事が捗らない』というのも紛れもない事実。たとえそれが単なる思い込みであろうと、ニコチン依存によるものであろうと、太古の呪いであろうと、理由などどうでも良いのです。現実問題、今この場にタバコがなければ仕事は進まないのだから。

これが私が「これまで禁煙をしなかった最大の理由」です。

さすがに1日2箱吸うのはどうかと思い、徐々に本数を減らし、最近は「タバコを吸うのは物書きをしている間だけ」として1日7~8本まで減らしてはいましたが、それ以下にする気はありませんでした。

しかし…

禁煙開始

そんな私が、思いもよらず完全禁煙に挑戦することに。しかも禁煙外来等には通わず、パッチやガムも使用せず、完全自力の我慢禁煙でチャレンジ。

なぜ禁煙に踏み切ったかはここでは触れませんが、それほど重い理由があったわけではありません。

しかし開始直後それはもう酷いもんでした。起きてから寝るまで頭の中はタバコ…煙草…たばこ…。意識がボーッとした状態が続き、全く集中する事もできない。

ちょっと物書きをしてみようかと思ってもまるで文章が浮かばず、それどころかモニタに目の焦点すら合わない。完全に「お外に出してはいけない状態」の顔ですよ(笑)

『一週間は仕事にも影響が出るだろう』とは思っていたものの、まさかここまでニコチンの離脱症状が酷いとは…。

頻繁に激しい喫煙欲求を感じては、タバコを吸わせろと叫び暴れたい衝動にかられ、頭から布団をかぶって唸りながら耐える。禁煙開始の翌日から1週間まではそんな状態でした。

禁煙1週間経過

どうにか1週間を乗り切り、離脱症状はほんの少しだけ緩和。

しかし本業はどうにか誤魔化し誤魔化しできるようになったものの、物書きはまるで文章を紡ぎ出せない。

必死に足掻いて駄文を垂れ流してみるも…30分も経たないうちに集中が続かなくなり、ニコチンをただただ待ち続ける私の脳味噌。

やはり『物書きにタバコは必須』だったんです。禁煙だなんて、なんと愚かな行為に手を染めてしまったのでしょう、私は。

しかし何事においても、中途半端にかじっただけで知ったふうな事を言うのはアホの所業。結論はもう少し続けてから出すことにしましょう、つらいですけど。

禁煙2週間経過

ちょうど2週間を経過したところで朝から晩まで感じていた強い眠気が緩和され、だいぶ集中できるように。

試しに物書きにもチャレンジ。

『書き始める』
 ↓
『行き詰まってタバコが吸いたくなる』
 ↓
『我慢しながら自力で集中できるよう努力』
 ↓
『多少持続して書く事が可能』

…という状況に。

おや?現段階ではやはり『タバコがあったほうが物書きが捗る』というのは変わらないものの、この流れが続けばもしや…。

禁煙3週間経過

相変わらずタバコが吸いたくて仕方ないものの、我慢にもだいぶ慣れてきました。

そしてついに物書きにも大きな変化が。

喫煙しながら書いていた時期は、ぶっ続けでキーボードを叩いていると『最長でも2時間程度で休憩が必要』だったのが『気づくと3時間以上叩き続けている』という状況に。

そこでまた「気分転換にタバコが吸いたい」という欲求は出てくるものの、仕事に集中しようと努力すれば数分で忘れる。

『タバコを吸ったほうが落ち着く気がするが、なぜか吸わないほうが集中力が続く』という、禁煙成功者や医療関係者が言っていたことそのまんまの悔しい現実が目の前に迫ってきています。

やばい、このままでは「物書きにタバコは必須!」という主張が間違いだったと認めなくてはならない日がくるかもしれません。

禁煙1ヶ月経過

ニコチンを完全に断って一ヶ月が経過すると、

明らかに喫煙時よりも物書きが捗る。

…と、認めざるを得ない状況に。見て下さい、上の写真を。これまでの灰皿の写真よりもスッキリしていて仕事できる男の雰囲気じゃないですか。私の写真じゃありませんけど。

喫煙時には不可欠だった「ニコチン補給」の行動、これがなくなる事で気分転換の機会を失ってしまうかと思いきや、そもそも気分転換自体を必要とせず、これまでよりも長く文章を紡ぐ事ができるようになっているのですよ。

もちろん数時間ぶっ続けでキーボードを叩き続ける事はないものの、たまに軽く身体を伸ばす程度で再び集中できる。

これはもう、結論を出さざるを得ないでしょう…

物書きにタバコは必須ではない

よく考えてみれば、おかしな話ではあるのです。

全くタバコを吸わない物書きが「もっと良いものを書くにはタバコが必要だ」と喫煙者になった話など聞いたことがない。「物書きにタバコが必須」と言っているのは元から喫煙していた人間の主張です(私も含めて)。

つまり、『物書きにはタバコが必須』なのではなく、単純に『喫煙習慣のある物書きにはタバコが必須』、すなわち『喫煙者にはタバコが必須』という、当たり前の話だったわけですよ。だってニコチン中毒なのですから。なにをするにもタバコは必要でしょう。

ニコチン中毒は「脳」と関係しているというのが厄介でして、他の身体の部位であれば理性や理論で制御できるところを、その人間の思考を司る「脳」そのものがニコチンを欲しているがゆえに、「○○○だからこそタバコは必要だ」と都合の良い正論に置き換えてしまうのが怖いところ。

私もそうでしたが、あれこれ理由をつけて「喫煙によるメリット、禁煙することで生じるデメリット」を主張したがること自体が「脳がニコチン中毒にヤラれている」という事の証明なのでしょう。

断言します。

物書きにタバコは必須ではありません。
ニコチン中毒の物書きには必須…という事です。

ということは選択肢は2つ。

過去の私のように「ずっと喫煙者で良い」と思っているならば、周囲に迷惑をかけないように上手にタバコと付き合っていきましょう。タバコは良い気分転換になりますし、ニコチン中毒者にとっては物事を考えるのに素晴らしい手助けとなってくれます。他人がどう屁理屈をこねて否定しようと、それは事実です。

もう1つの選択肢は最も簡単で、最も難しい道。「ニコチン中毒者でなくなれば良い」のです。そうすれば物書きだけでなく、何をするにもタバコは不要になります。ただし決して「こちらが正しい選択肢だ」とは私は思いません。

そんな私もまだ禁煙一ヶ月。

相変わらず時々「タバコ吸いてぇなぁ…」とボヤきますが、禁煙直後の離脱症状を我慢したことを思えば、1本たりとも吸う気はありません。あんな地獄の苦しみを無駄にはできませんから。

そもそも私はタバコ云々以前に、物書きのスキルをもう少しどうにかしなければならないんですよ。ええ、わかっていますとも…。

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