今から10年ほど前、急にバギーやトライクと呼ばれる乗り物が盛り上がった時代がありました。

現在でも決して一般的とは言えない乗り物ですが、その当時はほぼ世間で認知されていなかったバギー(ATV)とトライク(側車付二輪)。

「ノーヘルで乗車可能」という事が注目を集め、若者や目立ちたがりの大人がこぞって食いついたものです。

未知との遭遇

まだ世間でバギー・トライク(正式名称ではありませんが、一般的に浸透している呼称を使用します)の認知が薄かった頃、私の友人がそういった乗り物を専門的に取り扱うショップを立ち上げあげました。もう10年以上前の話です。

私もその友人から「こんな面白い物があるんだが、1台どうか?」という誘いをうけ、初めてバギーという乗り物の存在を知りました。

 

501

こちらです。写真は当時のパンフレットから。

もともとはDINLIという台湾メーカーのATVなのですが、その中から若者ウケしそうなルックスの車両を選び、KWというブランドネームを付けて「X-501/503/505」と3台展開してきたものです。

私が最初に感じた印象は、おそらく世間の大半の皆様同様、

「こんな恥ずかしい乗り物で外を出歩けない」

です(笑)

嘘のような本当の話

当時親しくしていた友人なので、できればショップの立ち上げに協力してあげたいのですが・・・ちょっと付き合いで、という軽い気持ちで購入できる製品でもありません。

このKWシリーズはRIZEのJESSEをイメージキャラクターに据え、クールなプロモーションビデオを制作し、一部地域ではCMまで流すなど・・・かなり本気で展開してきた製品です。それゆえ、価格も約25万円という強気設定。

何度も見ているうちに「恥ずかしい」という感覚がマヒし、少々興味も湧いてきたのですが、やはり購入となると話は別。断ろう、そう考えていました。

しかし、おそらくパンフレットを見ながら眠ったからでしょうか。ある晩、バギーの夢を見たのです。

夢の中で私はバギーに乗り、町を走っていました。その解放感たるや。今まで経験した事のない感覚で、生まれて初めて自分を全て解き放ったような気持ちになりました(夢ですが)。

そして目覚めた朝、決めたのです。「買う」と(笑)

当時の愛車

kw

当時はまだスマホなど無い時代でしたので、小さな携帯撮り写真になります。

右側が私のX-501。ロングスイングアーム&オンロードタイヤに変更し、ヘッドはX-505の物と換装するなど・・・無駄に金をかけてカスタマイズしています(笑)

若かった、という事もあり、本当に夢中になりました。

寝ても覚めてもバギーの事を考え、ヒマさえあれば乗り出し、朝から晩まで・・雨の日も雪の日も・・とにかく乗って乗って乗り続けました。

「もう自動車は必要ない」とまで思うようになり、当時所有していた車も手放してしまいました。

立ちはだかる日本の法律

このバギーと呼ばれる乗り物、正式にはATV(All Terrain Vehicleの略)で「全地形対応車」という意味になります。外国ではアウトドアを中心に、ポピュラーな存在となっている国もあります。

しかし、欧米のような自由な乗り物文化がない日本という国では、待っているのは窮屈と言えるほど厳格な法の壁です。

ATVを公道で走行させたい場合、一般的には「ミニカー登録」となるのですが、ナンバー取得の条件として「50cc以下」になります。本来ATVというのは50cc以下の車両というのは少なく、それゆえ日本の法律に合わせるとどうしてもパワー不足となってしまいます。

せっかくのミニカー登録で時速30km制限がなくなったところで、せいぜい時速50kmが限界。車幅があるために細い道では後続車両にも迷惑がかかる。

走行中

冒頭で紹介したKWシリーズも、この後に「G-35」「XXX(トリプルエックス)」などの大型車両を投入してくるのですが、本来は大排気量のATVを50ccにダウンした製品のため、重量に対してパワーが釣り合っておらず、まともに行動を走るのも困難な仕上がり。

そんな「本来の楽しみができないほどの非力さ」ゆえに、50cc以上のATVを違法にミニカー登録する人間が増え、それを暗に勧める業者まで増える始末となってしまいました。

注意:現在も50cc以上のATVをミニカー登録で販売しようとするショップは存在します。くれぐれも注意のうえ、法律を守って登録しましょう。

儚く消える・・・

世間での認知度が少し上がった事で、別の問題も発生しました。

流行品などにはつきものの「コピー品」「粗悪品」、いわゆる「中華バギー」と呼ばれる乗り物です。

現在国内メーカーでATVは生産されていませんので、購入するとなれば必然的に外国製になり、中国製パーツも多く使用されています。しかしそういった意味合いではなく「日本国内で販売する事を目的として、中国で安価に製造した粗悪品」が多く出回り始めました。

マトモに走行できない、走行中に重要なパーツが破損する、等々・・・乗り物としての基本すら踏まえていない危険な製品が、オークションなどを中心に多数販売されました。

私も何台か触れる機会がありましたが、それはもう「命を預けられる乗り物」とは呼べないレベルの製品が多々ありました。

その容易に手が届く価格設定から「単純に目立ちたい」「ノーヘルで乗りたい」といったライトユーザーが飛びつくのですが・・・・そういった乗り手は、頻繁に続く不調まで愛したうえで長く乗り続けるような事はしてくれません。

結果、「実走行での不便さ」「粗悪品によるイメージ低下」によって、瞬く間にバギーブームは失速していく事となりました。。。

夢が終わり、新たな泥沼へ

3台

かく言う私も、このバギーは1年ほどしか所有していませんでした。

しかし決してダメになったわけでも、飽きたわけでもなく、新たな車両に乗り換えるためです。

おそらく・・・たった1年間とはいえ、こういった個性的な乗り物に囲まれながら、自分自身も乗り続けたせいで、感覚が麻痺してしまったのでしょう。

そのお話は次回、

「フュージョントライクという異形の乗り物」

で垂れ流されます。

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